「ちょっと話があるんだけどいいかな?」
ソルトとあきは向かい合って座りました。
「卒業おめでとう。
ところであきは、中学からこの女子学園に入る時の事覚えているか?
あきはそのころ、劇団に入りたいって言ったよね。」
そうそう、小学校5年生の終わりころ、突然劇団に入りたいと言って
自分で履歴書書いて、写真映してきて貼って、いざポストへ入れる
までになっていました。
このころのあきは、なんにでも一生懸命で、突然「海外に行きたい」
と夏休みに2週間サイパンでホームスティをしました。
親が心配するなか、後も振り返らずどんどん出国手続きをして飛行機に
乗り込んでいった後ろ姿が今でも忘れられません。
そんなあきが、小学校5年生の時、雑誌で劇団員の募集を見て、
自分でさっさと書類の用意をして、「私、劇団に入る」と言っていました。
もう今日にもポストに入れようという日、学校から某女子中学のちらし
をもらて来たんです。 そしたら・・・
「これも面白そうね・・・私にはこの道もありかもね」とか言って
ソルトに「女子学園に入りたい」と言いました。
するとソルト「劇団員と女子学園、両方は無理だ。ましてや東京まで出るのに
時間がかかるこんな田舎じゃ通えないだろ。どっちか一つにしなさい」
で・・・あきは悩んだ結果
「女子学園へ行く!」と自分で決めました。・・・でソルトは
「わかった、女子学園に行くなら劇団員はきっぱりあきらめて学業に専念しなさい。
ただし、受験しても受からなきゃ入れない。また受かってもパパの自営業が
その時うまく行っていなければ経済的に入れない。
その覚悟はいいな?」
「はい」
そうして、あきは東京のはずれの女子学園に合格。
中学から私鉄~JRを乗りついで学校に通い始めました。
成長するに従って、背が高くなり、親が言うのもなんですが
学校では「かわいい」と騒がれ、スカウトも何度もされています。
そんな中、徐々に女子の憧れであるモデルになりたいと思い始めました。
何度もチャンスがありました。大学に入ってからも某有名なモデルの学校に
通い、「どうしてもっと早く始めなかったの?」と言われ続けました。
でも、結局は心の深いところで「どっちか一つ」というソルトとの
約束が最後の決断をさせなかったようです。
それをソルトは
「あの約束があきを束縛しているんじゃないか・・・」って
感じていたようです。
でも、踏み出せなかった理由はそればかりとは思いませんが
確かに一つの要因ではあったかもしれません。
「約束したよな・・・学校か劇団か・・・って
今日、あきは10年間女子学園に通って、卒業したわけだが
ほんとによくがんばったと思う、片道2時間、往復4時間の道のり
経済的に傾いた高校3年の時からは家を助けてがんばった。
行きたい大学に行かせることもできなかったが、
大学に行って、いっぱいアルバイトして、必要なものは
自分で賄おうとした。バイトも全力でがんばった。
資格も挑戦して取った。
100%じゃないんだよ・・・あきはパパとの約束も最後まで守って
200%もがんばったんだよ。よくやったね。」
あきは、目にいっぱい涙をためながらうんうんとうなずいていました。
「もう、パパとの約束はこれで果たした。
だから、もう自分の道を行きなさい。
病気(非定型うつ)の事もあるから、すぐに何かをできる
わけじゃないかもしれない。
それでも、もう自由だからそれに向かって行きなさい。」
と言って、プレゼントの箱を出しました。
「それで、これは約束を果たしたご褒美と、これからスタートする
あきへのプレゼント。
これからの人生で重要な書類を書くときに使いなさい」
あきが開けてみると、金のローマ字で名前の入った万年筆でした。
年をとっても使えるようにと万年筆の専門店で求めたものでした。
「ありがとう・・・でもこれ高かったんじゃない?」
おいおい・・・お金の心配しなくても(笑)
「大事に使うね・・・」
私は「婚姻届とか書くときにいいんじゃない」と言って
3人で爆笑しました。
夜、就寝前に、あきが私ところへきて
「あ~~~ さっぱりしたぁ~
卒業式終わってなんがかさっぱりしちゃった。
こんな気持ちになるとは思わなかったよ。
あと・・・パパからの話もね・・・・」
と言いました。
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